医療系国家資格の話、第5弾となります。
いずれも薬物療法を中心とした西洋医学とはアプローチが異なり、施術によって自然治癒を高めて元気を取り戻すことに期待があるでしょう。
資格取得には短大や専門学校、大学で3年以上勉強しなければなりません。
それだけ苦労と時間をかけて取得する資格なので、マッサージ師としての信頼も厚いでしょう。
柔道整復師
柔道整復術の成り立ちは、日本古来の武術に由来しています。
日本古来の武術には、「柔術」があります。柔術とは、素手や武器で戦う武術のことです。
元々、柔術には、次に挙げる2つの種類がありました。
- 殺法(さっぽう)
- 活法(かっぽう)
戦う相手を殺傷するための柔術です。「殺法」は、時代の流れとともに変化し、現在では、競技で行われる柔道に発展していきました。
活法とは、負傷者を蘇生したり、治療したりする柔術として使われていました。
現在では、この活法から派生した方法が、整復や固定などといった負傷者への治療法として受け継がれ、「柔道整復術」となったのです。
接骨院や整骨院では、柔道整復師によって、骨・関節・筋・腱・靭帯などに加わる外傷性が明らかな原因によって発生する骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷などの損傷に対し、手術をしない「非観血的療法」によって、整復・固定などを行い、人間の持つ治癒能力を最大限に発揮させる施術を行っています。
柔道整復師は国家資格を取得後、開業、病院勤務、接骨院・整骨院のスタッフはもとより、スポーツ分野でのトレーナーや介護や福祉の分野で機能訓練指導員として活躍しています。
これらに加え、防災訓練活動や東日本大震災の被災地でのボランティア活動を展開してきています。
地域包括ケアシステムの一員として認知されています。
また、その活動範囲は日本だけでなく世界にも広がっており、確かな知識と技術を備えたスペシャリストとして活躍しています。
資格取得後は、実務経験と研修の受講により「接骨院」や「整骨院」という施術所を開業できます。
柔道整復師は業務独占資格です。
柔道整復師法では「柔道整復師もしくは医師でなければ、業務としては柔道整復を行ってはならない」と規定されています。
その一方「柔道整復師以外の人が柔道整復師の名称を用いてはいけない」という条文はないため、名称独占の特性までは持っていません。
柔道整復師の仕事内容
柔道整復師は医師の同意があれば、骨折や脱臼の治療を行うことができます。
また、原則として柔道整復師が行う治療は医療保険の対象となります。
柔道整復師は、ケガ(骨折・脱臼・打撲・捻挫など)によって、損傷した骨・関節・筋肉・靱帯などに対して、柔道整復術を使い治療をします。
柔道整復師が行う仕事内容は、次の3つに分けられます。
- 整復
- 固定
- 後療法
整復とは、骨折した箇所を元の状態に戻したり、外れた関節を元に戻すための操作をしたりする治療方法です。
固定は、骨折や脱臼、捻挫などをした場合に、三角巾・包帯・テーピングなどを使って、患部を固定する治療方法です。
後療法は、ケガで損傷した箇所の回復を図るために、電気などの治療機器を使った「物理療法」、運動の指導や筋力トレーニングを行う「運動療法」などの治療方法です。
資格取得までのルート
(画像をクリックすると、大きな画像が表示されます)
柔道整復師になるには、厚生労働省が毎年3月に実施している、柔道整復師の国家試験に合格する必要があります。
高校卒業後、都道府県知事が指定した専門の養成施設(三年間以上修学)か文部科学省が指定した四年制大学で解剖学や生理学などの体に関する知識を学習したり、外科学や整形外科学などのケガに関する知識を学習したりします。
試験内容
柔道整復師国家試験で出題される科目は下記の通りです。
- 解剖学
- 生理学
- 運動学
- 衛生学・公衆衛生学
- 一般臨床医学
- 外科学概論
- 整形外科学
- リハビリテーション医学
- 柔道整復理論
- 関係法規
キャリアアップ・関連資格
- 健康運動指導士
- 介護支援専門員
- メディカルアロマセラピスト
- メディカルリンパドレナージュ
詳しくは…健康、体力づくり事業団
詳しくは…日本統合医学協会
鍼灸師
鍼灸師とは、「はり」や「きゅう」を使って、健康回復を助けたり治療を行ったりする職種です。
医療機器や薬剤を使う西洋医学にもとづく治療とは異なり、鍼灸師が行っているのは東洋医学にもとづく治療。
「はり・きゅう」を使い、体のツボを刺激することで人間本来が持つ自然治癒力を高めていくという方法です。
そのため、鍼灸師は東洋医学の専門家と言えるでしょう。
「はり師」と「きゅう師」は鍼灸師と呼ばれていますが、それぞれ2つの資格に分かれています。
そのため、鍼専門で治療を行っている人のことは「はり師」、そして灸を専門としている人であれば「きゅう師」と呼ぶのが正解です。
ただ、「はり」や「きゅう」の治療を一緒に扱っている治療院が多いため、一般的には鍼灸師と呼ばれることが多いようです。
東洋医学を基本としている鍼灸治療では、体のあちこちにある経穴(ツボ)をはりやきゅうを使って治療していきます。
はりで刺激を与えたり、熱の力で温めたりすることによって、自然治癒力を引き出して患部を改善させたり免疫力を高めたりしていくのがはり・灸の特徴です。
西洋医学のように薬品を扱わないので鍼灸師の仕事は、赤ちゃんや妊婦さん、授乳中の女性などにも行える治療として、最近では世界的に注目を集めています。
理学療法士・作業療法士等は、医師の指示がなければ施術を行えないと法で定められています。
はり師、きゅう師は医師の判断がなくても自分の判断で施術することができます。
鍼灸院では医師の診断書があれば、保険治療を行うことができます。
鍼灸師は、独立開業できるという強みがあります。
鍼灸師は鍼(はり)、灸(きゅう)を用いて治療にあたることから業務独占資格として位置付けられています。
手術や投薬治療に耐えられない高齢者は、はり師、きゅう師を必要とする場合があるので、これからの超高齢化社会によいて鍼灸師の需要が高まる可能性があるでしょう。
鍼(はり)、灸(きゅう)とは?
鍼の場合は0.14~0.34㎜位の太さの鍼を用いて体のツボを刺激することで治療していきます。
鍼の太さは一般的な注射針の約3分の1程度であり、先端も丸みを帯びているため、体に刺したときの痛みがほぼないのが特徴です。
「きゅう」は、薬草(よもぎなど)から作られている“もぐさ”と呼ばれる道具を使います。
もぐさをツボの位置においたら、火をつけることで熱を発生させ、その熱の力で治療をするというものです。
火を使って治療しますが、やけどするほど熱いということはありません。
リラックスできるような心地のよい温かさを保ちます。
鍼灸師の仕事内容
鍼灸師の資格を活かして鍼灸院で働くことが一般的です。
この他にスポーツトレーナーや介護福祉施設、一般企業の専門性の高い部署への配属される場合もあります。
資格取得までのルート
(画像をクリックすると、大きな画像が表示されます)
鍼灸師になるには国家資格が必要です。
しかし、国家試験を受験するためにも一定の要件が求められます。
鍼灸師になるためには、鍼灸師専門学校、新旧学科のある4年制大学又は3年制短大にてで一定のカリキュラムを修め卒業する必要があります。
専門学校は、日本医学柔整鍼灸専門学校をはじめ、鍼灸科があるところで養成課程を修了すれば受験資格を得ることができます。
大学も同様に、鍼灸学科がある大学に進学する必要があります。
そして、年に1回実施される国家試験に合格することで、鍼灸師と名乗ることができるのです。
ただ、「はり師」と「きゅう師」では、別の資格が必要なので2つの資格の受験をすることになります。
同時に受験する場合は、共通科目の試験は免除されます。
試験内容
鍼灸師国家試験で出題される共通科目は下記の通りです。
- 医療概論(医学史を除く)
- 衛生学と公衆衛生学
- 関係法規
- 解剖学
- 生理学
- 病理学概論
- 臨床医学総論
- リハビリテーション医学
- 東洋医学概論
- 経絡経穴概論
- 経絡経穴概論
これらの科目に「鍼師」には「はり理論」、灸師には「きゅう理論」が加わります。
キャリアアップ・関連資格
- 健康運動指導士
- 介護支援専門員
詳しくは…健康、体力づくり事業団
あん摩マッサージ指圧師
「あん摩マッサージ指圧師」とは、あん摩、マッサージ、指圧の技術を用いて患者さんの身体に起こる変調を緩和するお仕事です。
施術の特徴としては、東洋医学の知識を基礎として器具を使用せず、問診や検査法で患者さんの身体の不調の原因を特定し「なでる」「揉む」「押す」「さする」などの動作を直接患者さんの身体に行うことで血行を改善し、不調を和らげます。
あん摩マッサージ指圧師は他の医療職とは異なり、禁忌症、脱臼、骨折の症状を除いた個人の身体の不調に対して、医師の指示や判断なしに患者さんに治療を施すことができます。
あん摩マッサージ指圧師は、あん摩だけでなく、患者さんの身体の変調を考慮しながら同時にマッサージと指圧も施術します。
日本では明治維新後、医療現場においてドイツ医学を基礎とした治療方法の1つとしてマッサージが普及しました。
あん摩とマッサージは、どちらも病気の予防や治療、健康維持促進を目的としている点が共通しています。
これらの違いとしては、あん摩が衣類の上から遠心性の施行を用いるのに対して、マッサージでは直接皮膚に触れて求心性の施行を行う点になります。
また、指圧はあん摩、導引そして柔道の手技を取り入れた1点に圧を加える特殊な技法で、大正時代にアメリカの生体技術の理論とその手法をもとに体系化されました。
あん摩マッサージ指圧師は「業務独占資格」であり、あん摩マッサージ指圧師の資格を持たずに勝手にあん摩マッサージ指圧師と名乗り、あん摩、マッサージ、指圧を用いた治療を患者に施すことは法律で禁止されています。
あん摩マッサージ指圧師の歴史
「あん摩」とは、古来中国より日本に伝わった治療法です。中国最古の医学書で東洋医学の基本書でもある「黄帝内経」に伝わる手法をもとにしており、5世紀から6世紀の間に中国から日本に渡来したと言われています。
あん摩は漢字で「按摩(あんま)」と書きますが、「按」は「押さえる」、「摩」は「なでる」を意味しています。
日本においてあん摩が一般的になったのは江戸時代に入ってからであり、この頃から「按摩」を基礎とした、日本独自のあん摩の手法が体系化されてきました。あん摩マッサージ指圧師はなでる、押す、揉む、叩くなどの手を使ったあん摩手技を通して、人間が本来持つ「ホメオスタシス(恒常性)」に働きかけ、身体を健康な状態に導きます。
あん摩マッサージ指圧師の仕事
あん摩マッサージ指圧師養成施設の卒業後、一般的には卒業生の8割くらいが病院や施術所・治療院に就職していますが、マッサージ系ではスポーツトレーナーなどの道もあります。
施術所も大幅に増え、病院などの医療機関でも東洋医療技術者を積極的に受け入れるようになっています。
施術所・治療院を開業することも可能で、インターンとして働きながら臨床経験を積み、自分の腕に自信がもてるようになってから開業する人もいます。
資格取得までのルート
(画像をクリックすると、大きな画像が表示されます)
あん摩マッサージ指圧師になるためには
まず高校卒業後に文部科学大臣もしくは厚生労働省大臣が認定する専門学校または短大、大学などの学校・養成施設で3年以上勉強しなければなりません。
これらの養成学校では、あん摩マッサージ指圧師になるために必要な専門科目を集中的に学び、また実習を通してその技術も体得していきます。
あん摩マッサージ指圧師養成校には、はり師ときゅう師の受験資格を同時に取得できるカリキュラムを提供している学校が少なくなく、これらの学校に入学した人はあん摩マッサージ指圧師の他にはり師ときゅう師の国家資格を同時に取得することが多いです。
これらあん摩マッサージ指圧師と合わせてはり師ときゅう師3つの資格を持つ人は「針灸マッサージ師」もしくは「三療師」と呼ばれています。
東洋医学の学校には、以下の3つのタイプがあります。
- はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の3つの国家試験受験資格を取得できるコース
- はり師・きゅう師の2つの国家試験受験資格を取得できるコース
- あん摩マッサージ指圧師の国家試験受験資格を取れるコース
試験内容
あん摩マッサージ指圧師の国家試験で出題される共通科目は下記の通りです。
- 解剖学
- 生理学
- 病理学理論
- 衛生学・公衆衛生学
- 臨床医学各論
この他に実習があります。
キャリアアップ・関連資格
- 健康運動指導士
- 介護支援専門員
- メディカルアロマセラピスト
- メディカルリンパドレナージュ
詳しくは…健康、体力づくり事業団
詳しくは…日本統合医学協会
まとめ
柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージは大学や専門学校で3年以上専門的な勉強をしていることから、民間のマッサージ関連の資格より就職、転職に有利である上に国家資格である以上待遇も良いでしょう。
整体師として独立開業を行っているケースもありますが、安心安全の観点からお客様は国家資格を持った施術者がオーナーとなっているお店を選ぶ可能性が大きいと考えられます。