今や健康ブームであることから、栄養について見直されています。
しかし、医療や福祉の現場では栄養士はおろか、管理栄養士までもが下に見られているところも多々あります。
栄養学を更に学ぼうと研修会に参加する管理栄養士も多いのですが、研修会に参加したらしたで
「あなたたちは受け身の勉強しか出来てないから取り残されるのよ…」
なんて嫌味を言われることも…
でも、栄養士は素人とは全然違いますよ!
これは私が現場を見てきて思ったことでした。
かつては栄養士も管理栄養士もフードサービス業が中心だった
2005年の介護保険法が改正される前は、栄養士も管理栄養士も「フードサービス」が主流でした。
この頃、栄養士…というよりも管理栄養士に対して「病棟に出ないで厨房(事務所)に閉じこもってばかりいて、臨床の場を知らないなんて医療スタッフとしての価値がない」という批判や、「病院や施設専属の栄養士は必要ない」と言われる程でした。
栄養士は管理栄養士は名称独占資格であることから、当資格を持っていない者が栄養士や管理栄養士を名乗ることは出来なくても、栄養士や管理栄養士の仕事は代行出来ないわけではないのです。
つまり、栄養指導や献立作成は栄養士や管理栄養士以外が行ってはいけないという決まりもありません。
栄養指導における算定加算は管理栄養士ではないと点数が付かないということから、収入の関係によって辛うじて守られたようなものです。
栄養指導に関しても、薬剤師にやらせればいいとの声だってあります。
ネガティブなことを言うと、栄養士や管理栄養士は淘汰されることが危惧されるという側面も持っているのです。
20数年前までは給食管理に係る書類は手書きの事業所が多かった
「病棟に出ないで厨房(事務所)に閉じこもっている」というのは、あくまでも第三者から見た至って表面的なものなの。
栄養士業務の顔である「献立作成」は、第三者から見ると一見華やかなのですが、実は栄養士の事務業務の中で一番労力を使う仕事なんです。
今は、給食管理業務は栄養計算ソフトによって、献立さえ入力すれば関係書類は自動計算によって作成されるので、だいぶ簡略化が図れています。
ところが20年前は、給食管理に関わる書類を手書きで行っている病院や施設はまだ多く、中規模の病院で電算化が導入しつつある時期でした。
更に、自分が学生の頃や栄養士として従事したばかりの頃は手書きが当たり前であり、PCが入っている病院と言えば大規模の大学病院しかない状況でした。
当時のPCは100万円以上と高価なもので、当時は触るのが怖い位の存在だったのです。
給食管理に関わる帳簿を手書きで行うことは労力をかけます。
1日の献立の述べ食品数は約50品目以上となり献立の品目が多いと70品目を超える場合もあります。
これだけの品目のエネルギー、蛋白質、脂質、塩分を「各栄養素の栄養素養量×重量/100」を食品一つ一つ且つ栄養素毎に電卓を使って計算します。
それだけではありません。メニューや使用食材、カロリー計算した数字を手書きで献立表に記入します。
仮にこれが栄養計算ソフトによって電算化されており、献立のレシピがPCに登録されていれば1日分の献立をほんの数分程度で作成出来ます。
しかし、手書きでは10分では済まされません。更に病院のように治療食展開が必要となると、1日分の献立作成に時間を費やしてしまいます。
このような状態で一般食(常食、全粥、分粥食)や治療食をいちいち計算していたら、寝る時間すらも与えられません。
これは酷いよ!
補足
栄養計算をする場合は、1日あたりの食品群ごとの使用量を抽出して食品群ごとに合計使用量を算出し、1ヶ月間トータルを出したら平均使用量を算出し、加重平均成分表の値に基づいてカロリー計算をします。
加重平均成分表とは食品群別の中で主に使う数種類の食材から算出した栄養素の平均値を、食品群毎に出したものです。
例えば穀類なら…
- 米
- パン
- うどん
これらの栄養素の平均値の算出によって栄養成分の平均値が出されます。(厳密に言うと穀類のように使用頻度が異なるものは米の割合を増やして算出しています。
これでもだいぶ簡略化していますが、それでも労力がかかります。
手書き、手計算によるアナログ業務は人間の頭で作業するものですから、食品群ごとに算出された食品量が間違ったり、1ヶ月の平均値を算出する時に電卓の操作をミスしてしまって全然違う値を出してしまう等、間違いを起こしやすいというデメリットが付き物です。
傍から見て暇そうな厨房の事務所で給食管理を行う業務はブラックな仕事な仕事なのです。
手書きの発注書…これは最低な時間の無駄遣い
手書きの場合の帳票類の中で献立作成と肩を並べる位労力がかかるのが「発注」なのです。
これは1人あたりの使用量に発注人数をかけて全体の使用量を算出し、必要に応じて単位ごとの個数を出し、発注書に記入して注文という流れとなります。
ただ、この作業だけを見る限り、大して大変ではないようですが、倉庫や冷蔵庫、冷凍庫の在庫状況や使用予定の食材を確認が必ず必要です。
この食材の品目が以外に多く、調べるのに時間がかかり、在庫食材が次の発注期間までに使用予定があるかどうかまで調べておかないと、思わぬミスに繋がります。
倉庫のアイテムには…
米、揚げ油、醤油、味噌、酢、みりん、マヨネーズ、ケチャップ、だし(和風、洋風、中華)、小麦粉、ドレッシングが複数、ひじき、切り干し大根、切り昆布、海苔、刻み海苔、青のり、みかん缶、桃缶、リンゴ缶、ミックスフルーツ缶、麩、炊き込みご飯の素が数種類、ふりかけ、ジャム類、おやつ作りの材料、にんにく、しょうが、わさび、辛子、七味唐辛子、佃煮類(のり、うめ、たいみそ、いりこ味噌等複数種類)、治療食用の調味料(佃煮やジャム等数種類)、漬物数種類(レトルトタイプのきゅうり漬や桜大根等)…
この他にも消耗品や冷凍野菜の在庫状況を調べないと発注ミスや在庫過多を起こしやすくなる
そしてこれらのデータも踏まえて発注書を作成します。
特に病院に勤務している場合、患者様の食数に変動が見られる上に、治療食の指示を受けている患者様の食数の変動も見られます。
多めに発注すればロスが出る、少ない量で見積もれば材料不足の問題にも繋がり、ジレンマを感じるところでもあります。
発注書作成は栄養計算ソフトを使用している場合、献立の入力さえ間違っていなければ正確にデータを抽出して書類に反映する為、発注漏れを起こすリスクを抑えられます。
ところが手書きの場合、必ずしもデータ抽出が100%とは限りません。人間のやることですから発注漏れや電卓の打ち間違いによる発注量のミスが発生しやすくなります。
この発注ミスによって下手をすれば、調理師や調理員に大目玉を喰らうのです!
しかも、電卓で計算し、書類を手書きで記入する作業も時間を使います。
更にこの発注業務は精神衛生上良くないものであり、発注漏れがあったか不安をそそられ、勤務終了後に後ろ髪引かれる思いをしながら退勤となるのです。
下手をすれば書類を家に持ち帰って家で発注書作成ということもアリです。
更に、厨房業務と兼務すると早番や遅番のシフトを組み、肉体的に仕事がハードなので、家に帰れば疲れて勉強どころではなくなります。
このように手元の書類作成に追われている状況によって臨床の場に顔を出すことが出来ず、コメディカルとしての成長の機会を逃してしまっているわけなのですね。
栄養士、管理栄養士は裏では慌ただしい水面上の鳥
給食管理業務の事務作業の大変な部分を上げてみましたが、「栄養士(管理栄養士)という立派な国家資格を持っていて、資格手当も付いているんだから、その程度の苦労は当たり前!」と思われるかもしれません。
「隣の芝生は青く見える」という言葉があるように、栄養士業務で定番と言われる「献立作成」は事務所に閉じこもってのんびり楽しくやっているだろうな~というイメージを持っている人もいるかと思います。
最近では給食管理に係る帳票類は栄養計算ソフトで処理して作業時間の短縮を図れていますが、かつては時間の無駄遣いと言える程の作業時間でした。
そりゃあ、おねだりしましたよー
しかし、栄養計算ソフトを導入して作業の合理化を図っても、この業界は常に人手不足が深刻です。
給食管理に関わる書類作成はまさに「水面上の鳥」そのものなんですよ。
厨房現場では栄養士の力は大きい
栄養士なんてなくてもいいと言う人も世の中にいますが、素人のパートが栄養士にとって代わって同じ業務が出来るのかというと…
残念ながら殆どのパートスタッフは出来ません。。。
そうではなくても栄養士や管理栄養士は調理師やパートよりもアイテムが多いのです。
事業所によっては調理師が食材発注をしているところもあります。
それはそれで問題ないのですが。。。
治療食のオーダーが出され、その内容が特殊な場合の時に調理師が応えられるのかというとそうとは限りません。
栄養士の作成した献立に基づいて、食事をいかに見た目良く美味しく食べていただけるかを考えて調理を行う。
栄養学について少しは学んでいても栄養士や管理栄養士程の専門的な知識はありません。
調理師やパートに特別な指示を出す時は栄養士の方からメニュー変更のある個所を指示していかないとオーダーに応えられないことが往々にしてあります。
そして病院や施設の食事の調理は決して難しくありませんが、その代わり禁食、アレルギー、その他コメントで煩雑です。
実はこの煩雑な対応に貢献しているのが栄養士であって、栄養士が休んだ日に誤配膳のインシデントを起こすケースが結構多いのです。
そこは栄養士が当患者様や当利用者様の指示内容に応える知識があり、どの食品を使えばどの栄養素を補充出来るかを判断することが出来ます。
これと同等のことをパートにやらせることは無理があります。
そして栄養士である以上、患者様や利用者様の健康をサポートするという立場ということを弁えています。
患者様や利用者様から直接見えなくてもフードサービスという側面から食事や栄養による治療に携わっているという意識を持っているから煩雑な業務をこなす原動力に繋がっていると言えます。
もし、厨房に栄養士がいなかったら…
毎日のようにインシデントが勃発し、下手をすればアクシデントに繋がってしまいます。
だからといって、全てを栄養士に依存しては栄養士のノルマにキャパシティーオーバーを招きますからね。
厨房や栄養課の事務所で働く栄養士は臨床の場に出ないものの、陰ながら栄養サポートの一員として活躍していると言えるのです。
まとめ
中々世の中ではその価値を認めて貰えない栄養士ですが、下手な素人スタッフより明らかに栄養士は意識が高いと私は見ています。
現場の激しい肉体労働をやりながら隙間時間を使って手書きの献立や発注作業を行って、おまけに休憩時間を削って業務を行って、家に仕事を持ち帰えるという状態では時間も体力も失ってしまいます。
自分の仕事で一杯一杯で医療や介護の現場に足を運べない上に、自身の知識を深めようとしても、これでは勉強する時間も体力もなくて、それどころではないというのが実情でした。
価値観や向上心の有無は個人差がありますし、未だに昔の給食管理中心の時代のやり方に固持しているのであれば、ただの古狸にしか過ぎません。
ただ、昔から手書きの発注書を書いていた世代の人たちが全て向上心がないのかというと、そうではないのですよ。
今までこのような業務を行ってきた人達が厨房業務や給食管理業務すらも出来なかったのかというと、厨房業務は出来ていたし、特別な指示を出されていれば忠実に代替え食を提供するという業務をこなせていたのです。
これらの業務がこなせるからと言って栄養士の労働条件が良くなるのかというと、そうではないのですが、栄養学を学んでいるからこそのプロ意識なのです。
でも、これだけが栄養士の全てではないので、慢心しないでくださいね。
https://nayamerueiyoushi.info/iryoukaigotensyoku/
https://nayamerueiyoushi.info/careena-review/